脳科学者は言う。この世のすべてのできごとは脳の機能によってとらえられたことなのだと。確かに脳機能に障害を受けた親の姿を見ると、人生は脳機能が見せる幻影なのかと思う。脳機能が損なわれると本人の行動が変わり、人格も変わってしまう。同じものを見ても脳の状態によって感知できる内容は変わり、それに伴う反応、つまり表情、言葉、雰囲気も変化してしまうのだ。
ならば、世界は脳の働きでいかようにも見えるのか。よい脳には良い世界が、悪しき脳には貧しい世界が感知される。世界を楽しめるか否かは脳の働き次第なのかということである。もしこの考え方を認めるならば、人生は脳機能によって決まるということになる。良い脳を持ったものが幸せを掴み、悪しき脳の持ち主は浮かばれない。浮上するチャンスを失い続け、結果として精彩を欠いてゆく。
それは何か違うのではないか。脳の機能は確かに大きい。人類は脳の発達にかなり影響されているとはいえ、それ以上にその場の雰囲気、状況にかなり影響されていると考えるのだ、脳のフイルターを通らなくても感じている何かがあるのではないかと考えてしまう。すべてを身体の機能に還元しようとする現代の知見には敬意を払いながらも敢えて別の見方をしてしまうのである。

