氷饅頭

 亡き父がかき氷のことを氷饅頭と呼んでいた。昭和のある時期、家庭でかき氷を作れる器具が流行し、我が家にもたこ焼き用の鉄板とともによく使われた時期があった。

 かき氷を氷饅頭と呼ぶのは戦前に少年時代を送った人の、主に西日本での共通体験なのだそうだ。削った氷を何と新聞紙に乗せて売っていたというから、おおらかな時代だ、そう言えば福岡市に住んでいた頃、街のたこ焼きやも新聞紙にくるんで渡してくれた。三個で三十円という破格な値段であったが、今考えると新聞紙にそのまま触れた食品を何の抵抗もなく食べていたことになる。高度経済成長が終わった頃の話だ。

 氷饅頭の話に戻る。父はその話になるととても嬉しそうだった。かき氷を目にするたびにあれは氷饅頭だと言った。変な話というと、微笑んでいた。こんなことが何度もあった。恐らく子どもの頃の思い出と結びついているのだろう。

 最近は喫茶店でかき氷を見ても食指は動かない。冷たいだけで何がいいのかと思ってしまう。氷に耐えられる身体ではなくなったのかもしれない。

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