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子どもパイロット

今までで最も家から遠い場所に行ったときのことを聞かせてください。

 距離ではなく精神的な隔たりとしての長距離旅行といえば福岡から東京への小学生の頃の一人旅だろう。父の転勤で福岡市に住むことになった私は、夏休みになぜか一人で東京へ行くことになった。東京には叔母の家があったのでそこを訪ねる旅だ。なぜ一人旅になったのかは覚えていない。恐らく親の配慮なのだろう。

 福岡空港から飛行機に乗ったが、一人旅ということでワッペンを渡された。スチュワーデスのお姉さんがいろいろ世話してくれたのだが、残念ながらこの辺りの記憶が曖昧だ。恐らくとても良い緊張していて記憶の形成を妨げたのだろう。僅かな記憶はそのワッペンを安全クリップか何かで服に付けて、しばらくは宝物のように大切にしていたことだ。

 子どもにとっては初めての経験は負担が大きい。緊張感もあったと思うがこの点も忘却の彼方だ。余計なことを考えない分、案外簡単に切り抜けられたのではないだろうか。飛行機に乗れたことだけで十分満足していたに違いない。

 大人になって一人旅は当たり前になった。どうやって暇を潰そうかということばかり考えて、鉄道も航空機も単なる移動手段のように考えてしまう。子どもパイロットの時のときめきを思い出すべきだろう。それができれば旅はまた楽しくなるはずだ。