美しき日本

 ラフカディオ・ハーンの「日本の面影」に彼が赴任した島根の師範学校の様子が描かれている。学生の規律と勤勉さが賞賛されているのだが、現代の師範学校と言える大学の教育学部の学生との差はかなり激しい。

 ハーンの見た師範学校の学生は軍隊的な規律で統一されていたという。学費と一年の兵役を免除されていた学生たちは、それと引き換えに極めて自己抑制的、集団主義的な立ち居振る舞いを心がけていたようだ。ハーンはそれを美意識で捉えているが、現代の日本人からすればかなり窮屈で偏向した価値観に映る。教員となるものがかような一元的価値観で生活して良いものなのかと考えてしまうところである。

 ハーンはしばしば欧米との比較を行い、日本文化の独自性と優位性を論う。どちらが優れているのかという判断は個人的なものであるからそれ以上言うことはない。ただ、ハーンの見た日本のありようは晩年に精神的な理想郷を見ようとした心の作用の影響にあることは間違いない。

 ハーンにとっての島根時代がいかに豊かで素晴らしいものであったのかを、この「日本の面影」は伝えてくれる。ここに描かれた美しい生活は今の日本にあるのだろうか。

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