昔覚えた歌謡曲やアニメの主題歌の歌詞をいまでも忘れないのはなぜなのか。先日、ラジオから私が中学生の頃に流行った曲が流れた。その歌詞をほぼ完璧に思い出し口ずさむことができたことに自分で驚いてしまった。最近はいろいろなことを忘れて困っている。特に人の名前が出てこないときにはいろいろ気を遣う。そんな状態なのにどうして昔の歌の歌詞を覚えているのか。
演劇において役者が長いセリフを覚えるのはなぜなのか。ミュージシャンが暗譜をして演奏できるのはなぜか。これらも気になっている。おそらく練習した回数が関係しているのではないかということは間違いなかろう。なんども練習しているうちに身体が覚えるのではないか。
身体で覚えるということをもう少し考えてみる。これは言葉を発音の連続として覚えるのではなく、意味として把握し、なおかつ周囲の状況と重ね合わせてとらえていることを意味する。役者がセリフを覚えられるのは、その場面の状況や相手の役者のリアクションなどを一緒に覚えることによって成り立っているのだろう。役者の身振り、照明の色、舞台の雰囲気、そういったものも覚えているはずだ。人間の記憶の仕方は状況を覚えることにあり、記号の蓄積だけではうまくいかないようだ。この点はコンピュータとはちがう。
ならば、教育の場面において生徒の学習効率を上げるには、ある知識に対するエピソードを考えさせ、ほかの知識との関連性を意識させることにあるといえる。最終的には各自が構築しなくてはならないとしても、まずはきっかけを与えることが大切なのだ。「うつくし」がかわいいという意味だというこことを一対一の対応で学ぶのではなく、自分がかわいいと思う状況を想起させて、その場で「うつくし」というセリフをいうような場面を想起されば記憶は定着しやすい。
昔の歌の歌詞を覚えているのは、その歌にまつわる様々な思い出が 周囲に取り巻いているからで、歌うたびにそれが想起されるからなのだろう。単なる言葉の羅列ではない何かを感じたとき、記憶は堅固なものになるらしい。