病院に行くことがあった。緊急入院の手続きをする家族の横に嬰児を抱えた若い母親が並んでいた。当たり前のことだが、病院は人生のターミナルである。そこが目的地ではなく、通過する場所であるのにも関わらず、多くの人々が通り過ぎる。
人生で一度も入院したことがないのが私の自慢であるが、よく考えてみれば生まれたときは病室にいたはずだ。これから何らかのきっかけでお世話になることもあろうし、そこで生命の終わりを迎えるのかもしれない。
こういうことは日常生活の中ではまったく意識に上らない。緊急車両が目の前を通り過ぎたときでさえ、他人事としか思えない。いざというときになってたち現れすべてを覆ってしまう。人生にはこういう特別な場所がいくつかある。