古本屋でたまたま手にしたイタリアの作家、ジャンニ・ロダーリの小説『猫とともに去りぬ』を読んでいる。掌編小説集だ。
ストーリーは荒唐無稽なもので、ファンタジーというジャンルになるのだろうが、そこに強いアイロニーが込められているのが面白い。たとえばフィレンツェが水没しかけているので、魚になることを選択した家族は、海に入って無事に魚になるのだが、魚体のまま人間とのかかわりを続けていこうとする。そしてある時、海底に大量に遺棄された未解決案件の文書を発見し、それを取り除くと海底にある栓が抜けて無事に海水面が下がったという。そんなような話だ。
社会の現実を描こうとするとき、詳細に描きとろうとするとディテールの煩雑さに本質を見失うことがある。このような小説の手法をとると、伝えられることは限定されるものの、本質は伝えられるといえる。小説の持つ力のようなものを感じている。