最も影響を受けた教師は誰ですか ? なぜですか ?
私は教員でありながら生徒に影響を、しかもいい影響を与えたと思える実感がまったくない。授業にしても今日はよくできた、満足だと思ったことはない。それなりに準備はしていくのだが、思い通りに進められたことはないし、その錯覚を味わったこともない。結構自己嫌悪の連続なのである。
生徒としての経験でもっとも影響を受けたと言えるのは、小学校の渡辺先生である。転校生ですべてが刺激的で、しかも臆病だった私を助けていただいたのである。心的なダメージを最小限に抑え、何とか環境の激変を乗り越えられたのはひとえに先生のお陰だと思っている。
特に水泳の思い出は印象的だ。転校前の横浜市の小学校は新設のためプールがなかった。だから水泳の経験がほとんどなかったのである。転校先は水泳が盛んで、泳げる距離やタイムによって独自の階級が作られており、その級は水泳帽に刺繍されて可視化されていた。そこに無印の私が入ったのである。小学生にとっては封建社会の最下層のような感覚があった。
渡辺先生はそんな私を個人指導してくれた。水面に顔をつけることから、力みを抜いて浮かぶところまで、水泳の授業がある度に付き合ってくれた。クラスに他に泳げない児童はいなかったから完全なお荷物なのだが、最後まで付き合っていただいた。お陰で何とか25メートルは泳げるようになった。いまはゆっくりならある程度長い時間浮いていられる。そんな自信が持てるのも先生のお陰だ。
この自信はプールだけではなく、人生のさまざまな場面で生きている。先生は一昨年お亡くなりになられた。年賀状を送り続けていたが、必ず返事をくださっていた。それが娘さんから先生が逝去されたことを書いたお返事をいただいた。心の中で涙し、私の恩師が自分に残したことの大きさに感謝したのである。
先生と呼ばれる仕事を勤めるのもあとわずか。尊敬されるとは思えないが、せめて生徒のために自分なりの誠意を尽くす瞬間をたくさん持ちたいと考えている。
