作家の残した草稿を見ると創作の形跡がうかがえるのが面白い。いまはコンピューターで原稿を書く人が多いからそれはできない。昔の人は原稿用紙にいきなり書いてそれを何度も推敲するからその跡が紙面に残っている。それを見ることで最初に構想したことと後から付加、削除したこと、並べ替えたことなどが伺えるのである。
原稿用紙にパズルのように書き込まれたさまざまな思考の跡を見ると、作品は初めから出来上がっていたのではなく、何度も書き直されて今の形になっていることを実感することができる。そこから思うに、私たちも初めから完成形を作り出そうとするのではなく、まず考えたことをとにかく形にして、そこから何度も作り替えることが大事だということが分かる。
紙に書くことの意味の一つはこのように思考の跡をそのまま残せるということではないかと考えている。もちろんデジタルにも過去の訂正の跡を残せる機能はあるが、直感的に思考の形跡を残せるのはやはり紙面であると痛感したのであった。