「まし」という助動詞を教えるとき、気がついたことを書き残しておくことにする。
世の中にたへて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
この歌の解釈に反実仮想の概念が必要になる。世の中に全く桜がなかったならば、というのは事実に反することだ。日本人は桜に関する執着が強く、あちこちに植林してきた。虫害に弱く、様々な病気にかかりやすい桜を敢えて植え続けてきた。
春の人の気持ちはのどかであろうに。この推量が反実仮想の仮想に当たる。そもそもありえないことを想像しておいてさらに想像を重ねるのがこの助動詞の役割りだ。
私たちはどんなときに想像の翼を広げ、どんなときに幻想の世界に遊ぶのだろう。「まし」の用法を理解するためにはこの疑問を考える必要がある。反実仮想せざるを得ない切羽詰まった状況を考えるべきなのだ。
機械的に文法の知識を教えるのはたやすい。しかし大切なのは言葉の持っている背景を察してもらうことだ。
