リモートワークが普及する中で、企業の中心を都心から移す事例が出ている。一極集中のもたらす弊害やリスクを回避するためには良い考え方だ。
帝国データバンクが2021年9月3日に公開した「首都圏・本社移転動向調査(2021 年 1-6 月間速報)」によれば、2021年1月から6月の時期に首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)から他の地域に本社を移転した企業は186社であったという。6月までの統計で150社を超えたのは過去10年では初めてということである。その後もこの傾向は続いていると考えられ、300社を超えるとこの時点で予測している。移転先で最も多いのは大阪で茨城、静岡、北海道が続く。同調査は首都圏への転入数も発表しているが、昨年は2010年以来の転出超過になったようだ。
コロナ対策のさまざまな方策は、企業が首都圏にある必要性がないことを証明した。むしろ過密な都市に企業を置くことのリスクを露呈したといえるだろう。加えて我が国には天災のリスクがある。首都圏にはこの先必ず何らかの災害があることは専門家も認めている。もちろん、それは首都圏のみならず日本全国に当てはまるのだが、首都圏がその中心地になった場合のことを考えると、本社機能を集中させるのは意味がない。
地価や物価が比較的安価であり、うまく誘引すれば労働力も確保しやすい地方都市に本社を移転すれば、様々なリスクを分散できるようになるだけではなく、首都圏では得られないメリットがある。もはや東京である必要はない。ブランドでTOKYOを使いたいのなら、支店をおけばいいだけの話である。その意味があるとしたら。
こういう発想はやがて民間、個人にも及ぶのかもしれない。ほどほどのインフラがある地方都市があるのなら、そこに移住したほうがいい。そしてそこに移転した企業か、それに関連する仕事をすれば生計は立てられる。環境の悪い首都圏よりもかえっていい生活ができる。多少不便でもそのほうが人間的だと考える人が出てくるのではないか。
現状では日本の人口の約3分の1が関東地方に集中している。それがもし少しずつ他地域に移動して行けば、密集による弊害はなくなるだろう。逆にそれぞれの地域にライフラインを整備するという問題も発生する。環境に他する負荷も考えなくてはならない。ただ、首都圏を移転するというより、ほどほどの地方都市をいくつも作るという発想の方がいいようだ。