夏目漱石の『坊っちゃん』は親譲りの無鉄砲という性格の自己紹介から始まります。この主人公は自らのキャラクターを先天的要因で納得しているのです。このことをもう少し考えてみます。
主人公は2階から飛び降りたり、周囲から扇動されてナイフで指を切ってみせたり、喧嘩をしたりと凡そマイナスの側面を並べ立てそれらを親譲りと総括しています。親に関しての描写では愛情不足の様が描かれており、歪んだ少年時代が描かれています。
ただ、主人公は父親に関して必ずしも全否定の態度ではなく、むしろ否はあるがよいところもあるという把握をしているようです。明治時代の親子関係については別に考察する必要がありますが、好悪の感覚は単純ではありません。
封建体制を生きた親に育てられる世代であった漱石は近世と近代の間でかなり分裂した思考をしていたのかもしれません。親譲りという一言に込められた意味も複雑で深いものがあるのかもしれないのです。
