タグ: 4月1日

4月1日

 朝目覚めると不思議な感覚があった。なんでもできるという無敵感があった。そうだ私は実はかなり高い能力を持っていたのだ。それを忘れていた。今朝そのことを思い出したのだ。

 いつものように街に出かけた。すると明らかに多くの人が私に注目している。優れた容姿を持つわけでもないのに私が衆目を集めるのはおそらくそれなりの理由があるのに違いない。いまはそれが何かを説明することはできないが、自らの身から溢れる何らかのエネルギーがある。

 それでも少しも私は奢らない。あらゆる羨望も怨嗟も乗り越えていける気がしている。というよりその様な人々の営みがむしろ愛おしいものに感じられる。そうか私は一つ突き抜けてしまったのか。

 今日は何日だっけ。

起きたら

 朝起きると私は周囲が変化しているのに気付いた。見たこともない花が咲いている庭に鳥が数羽遊んでいる。遠くから横笛の音が聞こえるのは誰が吹いているのだろう。

 しばらくして分かった。ここには以前来たことがある。というより長く暮らしていたところではないか。どうして忘れていたんだろう。今までどうして思い出せなかったんだろう。長い旅をしてようやくたどり着いた気がしている。長い長い旅の果てにようやくたどり着いた場所だ。

 でも、そこには人影はない。先ほどの笛の音もいつの間にか聞こえなくなってしまった。風が吹き、わずかに木々の葉を揺らし、その先の花々も同じように動き続ける。

 そうか。そういうことか。私は納得した。自分のことを考えようとしたとき、それができないことをはじめは気づかなかった。誰なんだお前は。どこにいるんだ。そうした疑問に答えるすべがなかった。