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ゲルマニウムラジオ

 中学生のころ「初歩のラジオ」という雑誌を時々買っていわゆる電子工作をした。色々なキットが売っていて、理科系に進む以前の中学生でも始めることができた。

 最初に作ったのがゲルマニウムラジオだ。おそらく多くの人がここから始めている。このラジオは極めて少ない部品を繋げるだけで電源もないのにラジオが受信できる。イヤフォンから聞こえるたよりない音はそれでも十分に感動できた。

 私にとって幸運だったのは父がそこそここういうことに興味があったようで、工具箱の中にはんだ付けをするための道具が揃っていたことだ。回路の意味は分からなかったが、雑誌の通りに部品を揃えてはんだ付けすれば音がなった。それなりの達成感が生まれ、他にもいくつか電子工作をした。そのまま続けていればエンジニアへの道もあったかもしれない。私にはそれはなかった。他にもやりたいことが山ほどあったのだ。

 理科系は理論の学問なのに、工学は実践を伴い、個人的な努力が反映される。私にとっては興味の糸口はは十分にあった。でも、それよりももっと興味が惹かれたものがあったために、それ以上の深みにはたどり着けなかったのだ。人生はほんの少しの差で大きく変わる。

 ゲルマニウムラジオで受信できたときの感動を今一度思い出したい。驚愕と歓喜と幾多の好奇心の虜となったあの日のことを。