神保町は古書街である。学生時代、私は何度となくここを訪れ、いろいろなものを買い、さまざまな経験を積んだ。
私は公務員の息子で、親も節約生活を送っていたのは身に染みていたので、金銭の感覚は極めて渋いものがあった。外食はなるべく避け、しても最安値のものしか頼まなかった。大学にあった140円のカレーをほぼ毎日食していたのは別にやりたいことがあったからである。
ただ本を買うことには特別の意味があった。いまの様に資料がデジタル化されている時代ならば、ある程度は書籍への拘りはなくなっていたはずだ。当時はどれだけの書籍にアクセスできるのかで学問の業績がある程度決まったので、書籍獲得は必須の課題だった。
そんな訳で神保町に乗り込むときは私はかなりの覚悟で望んだ。場バイトで稼いだ金に、奨学金を加えて必要な本をまずは探す。100円でも安い本屋を探すために半日以上を費やした。買った本は韋編三絶とまではいかないとしてもヘビーローテーションで使い倒した。
いまはある書籍を使い倒すのは難しいです