漢字の力を伸ばすために

 最近の子どもたちの漢字の力が落ちているのではないかとはよく言われる。教員現場でも実感することで、漢字の読み書きの能力が総合的に低下しているように思われる。漢字力とは換言すれば語彙力でもある。少ない語彙では思考の深みは期待できない。漢字が書けなくなっている原因は何だろう。

 様々な要因がある中で根元的要因と考えられるのは文字を書く機会の減少なのではなかろうか。デジタル化の中で子どもの頃からスクリーンを通して文字を読み、実際に文字を書くことはほとんどない。作文とか感想文とかを書かせることが少なくなっているのかもしれない。

 そういう環境にある子どもたちに漢字の力をつけさせるには、やはり手書きで文章を数多く書かせることなのだろう。ただ、それを継続的に行い、かつ子どものモチベーションを維持させるためには工夫がいる。それは書いた文章を評価してもらえるという感覚を与えることだろう。リアクションがあれば続られるはずだ。

 さらに作文の出題方法にも工夫がいる。好きなことを自由に書かせるだけでは語彙が増えない。手持ちの言葉だけで済ませてしまう。今回は漢字力の向上が目的なので、普段あまり使わない語彙を使わせる必要がある。

 書いた文章を評価する必要性について述べてきたが、教員の立場からすると次のような本音が立ち現れる。その重要性は理解できるが、いったい誰が読んでどう評価するのか。そんな時間はないのだが、というものだ。

 授業の準備に加え、小テストの採点、生活指導、保護者対応、部活顧問としての役割など教員の仕事はマルチタスクだ。その中で文章の添削などできないというのが真実だ。私はこの問題に対して次の提案をしたい。例えば教科書で教えた文章を200字で要約させる。ただし、次の熟語を必ず使うことといった条件付き作文だ。

 要約の効用は別に述べる。いま問題にしているのは漢字力だ。指定した熟語が要約のキーワードにかかわるものだといい。漢字テストとはカタカナを漢字に変えるものだと考えている子どもたちの考えを変えたい。言葉は意味を持つものであり、文脈の中でその意味は少しずつ変わる。それは自分で使うことによって体得できるのである。だから、要約という作業をさせながら、同時に語彙の運用力も試すことができるという訳である。

 採点の仕方はいわゆるルーブリック評価で対応する。実は何点与えるのかは重要ではない。肝心なのは学習者にいかにたくさんの文章を書かせ、その評価を聞かせるということである。例えば中学校の教員なら、文章の添削に対して神経質になる必要はない。目的はいかに生徒に文章を書かせるのかということになる。でもルーブックがなければ進まない。それならば既存の評価表を使ってやればいい。

 漢字テストをカタカナから漢字にする問題とだけさせないために、実際に文章の中で運用させる機会を与えるというのがこの提案の趣旨である。採点する側はキーワードが正確に使われているのかだけのチェックだけでもいい。ならば多数の答案の添削でも、なんとか間に合うのではないか。

 これからの国語教育は人工知能ではカバーできない人間的な思考回路の補強、進展にあると私は考えている。日本語のように複雑な成長過程を持っている言語こそ、この問題に対処するためのいい事例となるのではないか。

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