
リニア中央新幹線の建設が進んでいる。完成すれば東京品川と名古屋を最速40分で結ぶという。必要性や環境問題の議論が尽くされないまま建設が進んでおり、もはや多くの人的物的投資がなされている。
仮に完成したとする。すると時間の概念に大きな変化が起こる。関東に住む多くの利用者は、最寄りのリニア新幹線駅までと到着後の目的地に着くまでにかかる時間の方がリニア新幹線に乗っている時間より長いことになる。近いのに遠く、遠いのに近いという逆説が出現することになる。
もちろんこうしたことはこれまでもあった。新幹線に乗って奈良にでも行くようならば、新幹線駅までと京都から奈良までの時間とがのぞみに乗っている時間より長いこともある。リニア新幹線はそれをもっと極端なもののようにしてしまう。
所要時間を尺度にした地図を作ればかなりいびつなものになるだろう。都民にとって名古屋はすぐ近くにあるが、千葉の館山は遥かに遠くにあるのだから。
時間と距離の感覚が崩壊した後に何が残るのだろう。リモートという擬似的な距離飛躍もあるがこれはあくまで現実ではない。適度な距離が安定を保証するという古来からの知恵がなくなったら、どんな世界観価値観が人々を包み込むのか。想像しているところである。