古い言葉に「おきなさぶ」というのがある。万葉集には見える言葉で、老人らしく振る舞うという意味だ。古代において翁は盛りを過ぎた高齢者であるとともに何らかの特殊な能力の持ち主であることを予感させる存在であったはずだ。
人生の両端にあたる嬰児と老人は、この世に生きる者の中ではあの世との境界に位置する存在と考えられたのだろう。だから、老人は必ずしも人生の末端ではなく、ある意味、神の存在に近いものと考えられた可能性もある。
だから、おきなさぶことは老いぼれを演じるという訳ではない。生きている存在にとってもっとも彼岸に近い存在として尊重されたのだろう。
高齢者がまるで社会の負担のようにしか考えない論調が横行するが本当にそれでいいのか再考すべきだと考える。